2011年2月17日木曜日

トヨタ“シロ裁定”に潜む、TPPの罠に覚醒せよ(カトラー Twitter: @katoler_genron )

「娘もトヨタ車買った」 米運輸長官、厳しい攻撃から一転、安全宣言
ラフード米運輸長官は8日の記者会見で「娘もトヨタ自動車の車を買った」と述べ、安全性にお墨付きを与えた。1年前は議会で「運転をやめるべきだ」と話すなど厳しいトヨタ攻撃で物議を醸しただけに、この日の会見は“安全運転”に徹した。(
MSN産経ニュース

米運輸当局がこれまでの強硬姿勢を一転させて、「トヨタ車の電子制御システムに問題はない」とする最終的な“シロ裁定”を出した。トヨタ攻撃の急先 鋒だったラフード米運輸長官は記者会見で、自分の娘からトヨタ車を買いたいといわれ、「トヨタ車は安全だ」と自らがお墨付きを与えた話などを披露し、これ までの態度を一変させてトヨタ車を持ち上げて見せた。

米国側がこうした異常とも思えるリップサービスを行っているのは、トヨタ車に対する過去の行き過ぎたバッシングの罪滅ぼしということではなく、この 1年間で日米政府およびトヨタのような日本を代表する輸出産業との間で何らかの合意、握りが取り交わされたことを物語っている。その見返りが、今回のラ フード運輸長官のリップサービスに見られる、米国市場におけるトヨタの信用回復というわけだ。

一転、トヨタの信用回復に動いた米国の意図

そして、日米政府そして日本の輸出産業の間で取引された、その合意、握りとは何かといえば、日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加に 他ならない。以下に、2009年以降の動きを中心にトヨタリコール問題とTPPの動向を比較できる年表(クリックすると拡大します)を作成したが、これを あらためて眺めると、この2つのテーマが正に不即不離の形で進展してきたことが見えてくる。

Toyota_recall_tpp

そもそも米国のオバマ政権が、TPPへの参加を表明した背景には、リーマンショック以降の苦境が続く米国経済の立て直しを図るために打ち出した「輸 出倍増計画」にある。これは、米国からの輸出を倍増させて、貿易不均衡の解消と国内産業の活性化および雇用の確保を目標に、昨年1月のオバマ大統領の一般 教書演説で述べられたものだが、大方は、その実現性を危ぶんだ。景気低迷の中にあっても、米国が現在でも世界一の内需・消費大国であることに変わりはな い。その米国が一転して、モノを売る方に回るというわけだが、世界中で一体どこの国が米国製品の買い手となり得るのか。

急速な経済成長で確かに中国などアジア新興国の購買力は高まっているとはいえ、今の新興国市場が米国製品の輸出倍増の受け皿になるとはとても考えら れない。例えばアップル社の製品のほとんどが中国、台湾のEMSで製造されているように、そもそも米国製造業の製造拠点の海外移転が限界まで進んでおり、 今更、製品輸出に貢献する産業を国内に見つけようと思っても難しい状況だ。

また、中国に関しては、中国人民元の固定為替レートを保持している限りは、TPPのような包括的な枠組みに参加すること自体が不可能だ。となると、米国製品の受け入れ先として残る標的は日本だけである。

TPP加入は実質、関税自主権の放棄

京都大学の中野剛志准教授が指摘し ているように、TPPとは、米国が輸出倍増計画のもと日本を標的に打ち出した通商貿易戦略に他ならない。中野准教授も指摘しているように、TPPに加入を 表明している国のGDPシェアを比較してみれば、そのことは一目瞭然で、「米国が7割、日本が2割強、豪州が5%で残りの7カ国が5%。これは実質、日米 の自由貿易協定(FTA)」(中野剛志准教授)に他ならない。

ただし、FTA(自由貿易協定)であれば、2国間で関税品目等を協議して決められるが、TPPの場合は、2015年までに原則全ての関税をゼロにす ることを前提としているわけだから、これは実質的な関税自主権の放棄に等しい。逆にいえば米国側の関税も取り払われるわけだから、自動車のような日本の工 業製品を売り込み易くなるという見方もできる。しかし、米国も含め各国が通貨安競争に走る傾向が強い現在のような世界経済の下では、そうした希望的観測は 全て裏切られることになるだろう。トヨタ車の信用が地に墜ちて販売台数が激減するのを尻目に、米国市場で大幅にシェアを伸ばしたのは韓国ヒュンダイだが、 トヨタの信用失墜もさることながらウォン安の追い風を受けたことが大きく働いた。
要するに凋落したGMに代わって世界一の自動車メーカーになったトヨタを、米国は、円高と技術欠陥デマを流布することで完膚無きまでに恫喝し屈服させたのだ。

かくして、トヨタのようなグローバル輸出企業にとって残された選択は現地化である。米国市場ではトヨタに先行して現地化を進めているホンダの現地化 比率が実に70%に達している。米国が今回のトヨタのリコール問題への対応を通じて発しているのは、「トヨタも米国内で車を売りたいのなら、ホンダのよう にもっと現地化を推し進め、工場もヒトも米国内で調達しろ」というメッセージなのだ。

米国のターゲットは農産品、医薬・医療、金融

一方、TPPという万能鍵を得た米国は、虎視眈々と日本市場をこじ開ける機会を狙っている。そのターゲットは、農産品、医薬品・医療サービス、そし て金融である。中でも農産品はTPP加入の人身御供として差し出されるといっても過言ではなく、既に日本のメディアでは、国内産業の就業者比率で5%、 GDPに占める比率では1.5%に過ぎない農林水産業が抵抗勢力になって「第三の開国」を阻み、日本の輸出産業の足を引っ張るのかというナイーブな論調が 支配的になりつつある。

確かに、日本の農林水産業には抜本的な構造改革が必要だ。しかし、それは日本側の事情と戦略に基づいて進められるべきだ。

仮にTPPが導入され2015年までに農産品の関税障壁が取り払われたら、大規模化が進んでいるといわれる北海道等の農業生産者であっても全く太刀 打ちできず、壊滅的な打撃を受けるだろう。TPP議論に関しては、小泉政権時代の構造改革論者や経済学者までが勢いづいて、米国の外圧を利用して構造改革 や規制撤廃を進めるチャンスというようなことを言い出しているが、そんな与太話には間違っても乗ってはいけない。繰り返していうが、TPPとは米国製品を 日本に買わせるために仕組まれた米国の戦略であり、相手の戦略に乗っかって自国民を利することなどできるはずがないからだ。

0 件のコメント: