2012年1月8日日曜日

資源が投機の対象にされてしまった    池上 彰

資源の王様ともいえるのが「石油」ですが、地球上のわれわれ人間が今のペースで石油を使い続けると、あと40年ほどでなくなってしまうといわれています。 産業革命以降、人類は石油を発見し、それ以来原油価格はずっと右肩上がりで上昇を続けてきました。リーマン・ショック以降、一時的に急落したものの、その 後またジリジリと値上がりを始めています。世界の原油取引の指標は大きく3つに分けられます。北アメリカの「WTI原油」、中東の「ドバイ原油」、ヨー ロッパの「北海原油」です。日本が輸入している原油は多くが中東産ですが、原油価格は「WTI原油の値段がどうなるか」によって決まります。WTI
はウエスト・テキサス・インターミディエートの略で、西テキサス産の軽質油のこと。ニューヨーク・マーカンタイル取引所には、この「WTI原油先物」が上 場されていて、取引量と市場参加者が圧倒的に多く、流動性や透明性が高いために、ここで決まった値段が「世界の原油の指標価格」となっているのです。ドバ イ原油にしても、北海原油にしても、この値段より「少し安い値段」で取引されるのですね。中国などの新興国が石油をガブ飲みする勢いで使うようになったこ とも、原油価格が上がった要因ですが、たとえば中東情勢が緊迫化してくると「石油の輸入が止まるんじゃないか」という恐れから、「先に買い占めよう」とい う動きになります。WTI
g原油の先物価格の値段が跳ね上がります。それだけではありません。それに便乗して世界のヘッジファンドなどの多くの投資家が、「儲かる」と思えば原油先 物を買うのでさらに価格が上がります。先物の価格が上がると、それに引きずられる形で現物の価格も上昇します。つまり、「実需」ではなく、原油が「投機」 の対象にもなっているのです。実は近年の原油価格の高騰には、日本の「超低金利」も関係していました。日本は今もなお低金利ですが、世界各国の金利と比較 したとき、ちょっと前までは日本だけが異常に低い状態でした。つまり、世界のどこよりも「お金のレンタル料」が安かったわけです。それに目をつけたヘッジ ファンドなどが円を借り、それをほかの国の通貨に替えて、より儲かる他の通貨の資産に投資してしまいました。これを「円キャリートレード」といいます。日 本発の資金が、原油先物を買う投機資金としても使われたのです。ところが事情は一変しました。リーマン・ショック以降、世界が協調して金利を下げているた めに「低いのは日本だけ」ではなくなったのです。アメリカもゼロ金利政策を取るようになり、もう円を借りる‘うまみ’はなくなってしまいました。逆に、 FRBがアメリカの景気が良くなるまで「まだまだ低金利を続ける」といったものですから、今度は米ドルを借りて運用する「米ドル・キャリートレード」の動 きが出てきているのです。円は90円を割り込むような円高になっています。(2009年10月時点)。するとまた原油は投機の対象になります。原油価格が 上がれば、あらゆるものの値段が上がります。今、実需を考えた原油の「適正価格」は70米ドル程度といわれていますが、世界経済は再び投機マネーによって 翻弄されているのです。原油は後40年で枯渇するといいましたが、エネルギー問題の裏には、急激な「人口増加」の問題もあります。日本が聖徳太子の時代 (6世紀終わりごろ)、世界の人口はわずか3億人でした。しかし人間が少しずつ知恵を絞るようになり、文明が発達し、人口が増えるようになって、西暦 1600年ごろには世界の人口は4億~6億人になりました。そして、1800年ごろには10億人、1900年ごろには20億人になり、それが今や68億人 になっています。まさに倍々ゲームですね。国連は、50年には世界の人口は90億人に達すると予測しています。日本だけのことを考えると、「少子化が問 題」ということになりますが、世界全体で考えると「人口の急激な増加が問題」ということになるのです。


これは世界の資源争奪戦が始まることを予期しています。

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