2012年4月8日日曜日

脱原発は、脱成長路線     佐伯啓思

「原発」をかりに現代の技術文明の象徴だとすれば、脱原発は、この技術文明そのものをどう考えるか、もっと言えば、技術文明に依存したわれわれの「幸福」をどう考えるのか、という問題へつながってくるからです。まずはっきりしていることは次のようなことでしょう。今ここで脱原発へむかったとしましょう。これは、長期にわたって電力使用レベルをおとすことであり、電力料金の値上げを容認することです。それは企業からすればコスト上昇によって国際競争力を失うことを意味し、消費者にとっては生活レベルを低下させることを意味する、ということです。太陽光などの代替エネルギーへの転換は急速にはできません。中国は今後も原発開発を推進するでしょうし、アメリカもそうでしょう。フランスは電力の80%を原発でまかなっていますし、これからでてくる新興国はこぞって原発依存になってくるでしょう。その中で日本は、高コストの電力によってグローバル競争をしなければならない。これは大変な不利な立場に置かれるのです。しかも火力への逆転は中東への原油依存をさらに高め、エネルギー自給の点でもますます不利になります。世界中が原発の方向を向いたのは、結局のところ、グローバルな市場競争のなかでは、出来るだけ低コストで豊かな電力供給を自給することが不可欠だとみなされたからです。この厳しい資源獲得競争のなかでは、化石燃料への依存はあまりに高コストだとみなされたのです。端的に言えば、グローバルな市場競争のさなかで経済成長を追求しようとすれば、出来るだけ資源制約の少ない安定したエネルギー供給が不可欠だったのです。こうして世界中の国がリスクを承知で原発のほうを向き始めた。

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