2011年2月17日木曜日

顔の無い「市民目線」に振り回される日本政治  カトラー

小沢一郎の再・強制起訴をめぐり、小沢一郎サイドから申し立てられていた議決の無効申し立てを東京地裁が却下した。
前回のこのブログのエン トリー記事でも取り上げたように、検察審査会の2回目の議決内容には、告発した市民団体の告発内容や検察当局の訴追内容に含まれない事柄が含まれている。 小沢一郎サイドもこの点をとらえ「今回の議決そのものが検察審査会の権限を逸脱した違法なもので無効」と主張し、議決の取り消しとともに、東京地裁が進め ていた指定弁護士を決める手続きの中止を求めていた。東京地裁は、そうした問題も含め、法廷で争うべきとし、この申し立てを却下したことで、今後の舞台は 法廷に移ることになる。

今回のエントリー記事で考えて見たいのは、小沢一郎を告発し、強制起訴の起点となった市民団体のことである。小沢の告発にどのような市民団体が動いたのかについてこれまで大マスコミは、なぜか触れてこなかった。
というのも、ネット上では既に話題になっていたが、在特会(在日特権を許さない市民の会)という極右団体が告発をおこなったことを、この会の桜井誠代表のブログ等で公表していたからだ。こうした団体が、在日外国人の参政権取得に前向きだったとされる小沢一郎の追い落としという政治的意図を持って仕掛けた告発であったとは、大新聞、テレビメディアはさすがに取り上げることができなかったのだ。

小沢一郎を告発した「真実を求める会」という市民団体

ところが、最近になって、朝日新聞のasahi.comが、小沢の強制起訴に向けた告発をおこなった市民団体として「真実を求める会」という正体不明の団体を探しだし、その団体に関する記事を掲載した。

Asahi.com 10月8日記事
小沢氏告発の団体とは 「保守」自認、政治的意図なし

取材を受けたこの団体の代表者は、小沢一郎という時の最高権力者の強制起訴に向けた告発を行うことで「命の危険があるから、名乗ることはできない」 と言っているらしく、記事中でも、関東近郊に住む60代の元新聞記者、元教師、元公務員、行政書士などの集まりとしか説明されていない。こうした団体のこ とを取り上げる朝日新聞asahi.comの見識も疑うが、この団体のような自称「市民の会」が、在特会などより、考えようによってはよほど質が悪い。

在特会の場合は、善し悪しは別にして、立ち位置や主張が明らかである。何故、小沢一郎を強制起訴に持ち込みたいのかも理解できる。しかし、「真実を求める会」とやらは、そうした自分たちの立ち位置をことごとく隠蔽している。あえて顔を隠しているのだ。
「命 の危険」という言い草もちゃんちゃらおかしいとしか言いようがない。民主的な手続きによって告発を行った日本国民を一体誰が抹殺できるというのか。いい歳 をして仮にそれを本気に恐れているのだとしたら、顔を世間に出し、自らの団体を公知のものにするほうがよほど身を守る上で安全だし賢明だよと言ってやりた い。

安全な場所に身を置きつつ批判だけは行いたい

要するに彼らは自分の姿は見せないで安全な場所に身を置きつつ、他人(この場合は小沢一郎)の批判だけは行いたいのだ。このように書いてくるとほと ほと情けなくなってくるが、こうした似非(えせ)インテリの連中が、常に「市民」を詐称してきたのであり、この国における「市民意識」「市民目線」なるも ののどうしようもない底の浅さを物語っている。

何かに向かって喧嘩する時は、自分も返り血を浴びる覚悟が不可欠であることは、子供だって知っている。それが嫌なら大人しくしていれば良いのだ。
ともすれば「無名性」に逃げ込み、「空気感」を醸成し、「おまえらも空気読めよ」と強制するのが、残念ながらこの国の世論やメディアの常道、常套手段になっている。

「真実を求める会」に集まっている人々も、心のどこかで自分たちは、議決書で謳われているところの「市民目線」や「世間」を代表しているとでも思っ ているのだろう。だからこそ、朝日新聞asahi.comも「世論」の代表として、名前すらも明らかにしないこの団体を取り上げている。根拠なきヒステ リックな小沢批判を繰り広げる朝日新聞にとって、告発の起点が在特会のような団体であってはまずいので、自分たちの醸成している「空気感」に近い「市民団 体」としてこの「真実を求める会」に飛びついたのだ。

ひと昔前まで、新聞TVに登場してくる「市民グループ」とは、共産党や社会党、労働組合などの支持組織・グループの別名だった。そうした詐称のお作 法がメディアでは今でも性癖として続いているのかもしれないが、「市民」というものが言葉の正しき意味において実体化した例はない。

「市民」なんてものはこの世のどこにも存在しない

あえていえば、この国に「市民」なんてものは無かったし、これからもないだろう。
それでは、民主主義の先進国といわれる欧米諸国において「市民」なるものが存在しているのかといえば、日本のように自分のことを「市民」という顔の無い無名の存在として捉えるような習性は誰も持ち合わせていないだろう。

要するに、朝日新聞をはじめとした日本の大手メディアが重宝がる「市民」や「市民目線」なんていうものは、そもそも世界中のどこにも存在しない幽霊のようなものなのだ。この世の中に存在しているのは、生身を持って切れば血が出る「あたな」であり「私」である。
様々な異なる生き方、考え方、異論を持った人間たちがいるだけなのだ。にもかかわらず、その幽霊のような「市民目線」に一国の総理になってもおかしくない政治家が追いつめられ、日本の政治全体が振り回されている。

検察審査会の討議内容を公開せよ

検察審査会についても同じことがいえる。審査会のメンバーについては、性別、年齢だけが公表され、どのような議論がされたのかは全くのブラックボックス状態である。
こ の場合、無名性と匿名性を分けて考えることが重要だ。個人名を公表しなくとも、取り交わされた議論の内容を匿名で公開すれば良い。議論のプロセスが明らか にされていない今の状態では、下された議決が妥当なものかどうか誰も判断できず、異論・反論の余地のない「市民目線」として独り歩きを始める。異論の余地 がない言説が独り歩きする世界、これこそがファシズムである。

ファシズムとは、もともと実体的なものではない。それは、人々の心が招来する亡霊のようなものだ。

市民たちよ!己が心のファシズムを恐れよ

(カトラー)

自由貿易協定

現在の自由貿易地域(Free Trade Area)   (クリック拡大)


自由貿易協定(じゆうぼうえききょうてい、英: Free Trade Agreement, )は、物品の関税、その他の制限的な通商規則、サービス貿易等の障壁など、通商上の障壁を取り除く自由貿易地域の結成を目的とした、2国間以上の国際協定である。

地域経済統合の形態の中では、緩やかなものとされている。2国間協定が多いが、NAFTA(北米自由貿易協定)等の多国間協定もある。

またFTAには自由貿易地域(英: Free Trade Area) として、自由貿易協定を結んだ地域を指す場合がある。 国際的には自由貿易協定(Free Trade Agreement)によって設定される自由貿易地域(Free trade Area, FTA)に略語を当てることが多く、日本では、自由貿易協定(Free Trade Agreement)にFTAの略語を当てることが多い。

環太平洋戦略的経済連携協定


環太平洋戦略的経済連携協定(TPP:Trans-Pacific Partnership、またはTrans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)は、元々2006年5月にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国加盟で発効した経済連携協定。これらの国々が太平洋を囲む関係であった事からこの名が付けられ、環太平洋間での経済協定として始まった。加盟国間の経済制度、即ち、サービス、人の移動、基準認証などに於ける整合性を図り、貿易関税については例外品目を認めない形の関税撤廃をめざしている。環太平洋経済協定、環太平洋連携協定、環太平洋パートナーシップ協定とも呼ばれる。

2006年5月に4カ国加盟で発効した経済連携協定であったが、2010年10月よりアメリカ主導の下に急速に推し進められる事となり、TPPの転換点と見られ参加国間で協議を行い2011年のAPECまでの妥結を目標にしている。

また、交渉・締結国に日本を加えた10カ国のGDPを比較すると、その9割以上を日米2カ国が占めるため、実質は日米FTAだとの見方もある。

2015年までに協定国間の貿易において、工業品、農業品、金融サービスなどをはじめ、全品目の関税を10年以内に原則全面撤廃することにより、貿易自由化の実現を目指すFTA(自由貿易協定)を包括するEPA(経済連携協定)を目標としている。実質関税自主権の放棄である。

また農林漁業のダメージや食料安全保障の観点から、多くの道府県議会から反対の意見書提出や特別決議の採択が相次いでいる。

金融分野において、現時点の郵政改革関連法案は金融の非関税障壁となっており改正の必要があると米国が問題視しているという報道がある。これに対し 郵政・金融担当相 自見庄三郎は、報道などが先走っており、仮に日本がTPP交渉参加を表明した場合でも米国がいかなる要望をしてくるかは現段階で不明である と会見で説明している。

ほか、これまでのような外国企業の進出・投資規制や労働者の受け入れ制限が難しくなるといった指摘もある。

連携協定の対象

参加を目指す国家がまとまり交渉の作業部会を設けている。連携協定が目指す貿易に関する作業部会の主な議題は次の通り。

工業製品、農産物、繊維・衣料品の関税撤廃
金融、電子取引、電気通信などのサービス             緑:発効時の加盟国
公共事業や物品などの政府調達方法            オレンジ:発効後の加盟国
技術の特許、商標などの知的財産権
投資のルール
衛生・検疫
労働規制や環境規制の調和
貿易の技術的障害の解決
貿易紛争の解決
  

日本

2010年10月8日、菅直人首相は自身が設置した新成長戦略実現会議[16]で、「米国、韓国、中国、ASEAN、豪州、ロシア等のアジア太平洋諸国と成長と繁栄を共有するための環境を整備するにあたっては、EPA・FTAが重要である。その一環として、環太平洋パートナーシップ協定交渉等への参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を視野に入れ、APEC首脳会議までに、我が国の経済連携の基本方針を決定する」という旨の総理指示を出した。

11月9日、菅内閣は関係国との間での経済連携強化に向け「国を開く」という観点から、農業分野、人の移動分野および規制制度改革分野において、適切な国内改革を先行的に推進すると閣議決定を行った。与野党でも賛否両論の中核である農業分野は関係大臣からなる「農業構造改革推進本部(仮称)」を設置し、2011年6月をめどに基本方針を決定する。さらに情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を始めるとしている[19][20]。

11月13日、9日の閣議決定に沿い菅直人首相はAPECにおいて「日本はまた再び大きく国を開くことを決断した」と述べ、交渉参加に向けて関係国との協議に着手することを正式に表明し、また「貿易の自由化いかんにかかわらず、このままでは日本の農業の展望は開けない」とも述べ農業の競争力強化への取り組みの決意も示した。

11月30日、菅内閣は「食と農林漁業の再生推進本部」を発足し、首相、関係閣僚と民間有識者11人からなる「食と農林漁業の再生実現会議」を設置し初会合が開催された。この初会合ではこの協定(TPP)への参加と農業の改革や国際競争力強化の両立論や協定への参加を前提としないなど意見は分かれた。

12月3日、TPPへの参加表明9カ国が集まる第4回ニュージーランド・ラウンドに、まだ参加を決定していない日本はオブザーバー参加を打診していたものの、参加が断られたと大畠章宏経済産業相は記者会見で述べ、参加国はTPPに関する交渉で忙しく、個別接触も難しかったとしている。交渉会合終了後に、政府は参加各国を個別に訪問し内容を確認するとした。

12月9日、経済産業省は「農業産業化支援ワーキンググループ」を立ち上げ、資源エネルギー庁、中小企業庁や関係団体として日本経済団体連合会、日本商工会議所、全国商工会連合会、日本貿易振興機構、中小企業基盤整備機構をメンバーとして農林水産省とは違った立場から農業の産業化を支援する作業部会を始めた。

高橋洋一の俗論を撃つ!

TPPで農業を自由化すると
日本の農業は本当に壊滅するか

 菅総理は並々ならぬ決意で、TPPを6月までにまとめると言った。同時に増税路線もいっているが、増税については、このコラムの第四回と第六回で述べたので、今回はTPPを取り上げたい。

 TPPの正式名称は、環太平洋戦略的経済連携協定(Trans‐Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの自由貿易協定(FTA)として2006年に発効し、その後、米国、豪州、ベトナ ムが参加するなどして、現在は計9ヵ国で枠組み作りに向けた交渉を行っている。

 モノやサービスはもちろん、政府調達や知的財産権なども対象とする包括的FTAで、原則として15年までにほぼ100%の関税撤廃を目指す。当然、農産物も例外ではない。

 TPPに対しては案の定、農業関係者は猛反発している。民主党では政治問題としても騒がしい。というのは、執行部対小沢一郎元代表の確執があるか らだ。TPPに反対しているのは大半が小沢グループの面々。関税撤廃反対、農家の保護を大義名分に、小沢氏を排除する執行部を牽制しようという本音が透け て見える。

 そこでまず検討すべきは、TPP参加によって、国としてプラスになるのかどうかである。これは大学生レベルの経済学の良問だ。もちろん歴史的にも自由貿易が支持されてきたことの裏付けになる。

TPP

別名:環太平洋経済協定、環太平洋戦略的経済連携協定、環太平洋パートナーシップ、環太平洋パートナーシップ協定、太平洋間戦略経済連携協定、トランス・パシフィック・パートナーシップ
英語:Trans-Pacific Partnership、Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement

2006年にAPEC参加国であるニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4ヵ国が発効させた、貿易自由化を目指す経済的枠組み。工業製品や農産品、金融サービスなどをはじめとする、加盟国間で取引される全品目について関税を原則的に100%撤廃しようというもの。2015年をめどに関税全廃を実現するべく協議が行われている。

2010年11月現在、すでに米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの5ヵ国がTPPへ参加、次いでコロンビアやカナダも参加の意向を表明している。

日本はこれまでTPPに対する姿勢を明らかにしていなかったが、2010年10月に開かれた「新成長戦略実現会議」で、菅直人首相がTPPへの参加検討を表明した。しかしながら、TPPが原則として例外を認めない貿易自由化の協定であることから、コメをはじめ国内の農業・漁業は壊滅的な打撃を受けるとして反発する声も上がっている。

2010年11月9日の閣議決定ではTPPへの参加は決定されなかったものの、下記の通り「関係国との協議を開始する」との決定が下された。

トヨタ“シロ裁定”に潜む、TPPの罠に覚醒せよ(カトラー Twitter: @katoler_genron )

「娘もトヨタ車買った」 米運輸長官、厳しい攻撃から一転、安全宣言
ラフード米運輸長官は8日の記者会見で「娘もトヨタ自動車の車を買った」と述べ、安全性にお墨付きを与えた。1年前は議会で「運転をやめるべきだ」と話すなど厳しいトヨタ攻撃で物議を醸しただけに、この日の会見は“安全運転”に徹した。(
MSN産経ニュース)

米運輸当局がこれまでの強硬姿勢を一転させて、「トヨタ車の電子制御システムに問題はない」とする最終的な“シロ裁定”を出した。トヨタ攻撃の急先 鋒だったラフード米運輸長官は記者会見で、自分の娘からトヨタ車を買いたいといわれ、「トヨタ車は安全だ」と自らがお墨付きを与えた話などを披露し、これ までの態度を一変させてトヨタ車を持ち上げて見せた。

米国側がこうした異常とも思えるリップサービスを行っているのは、トヨタ車に対する過去の行き過ぎたバッシングの罪滅ぼしということではなく、この 1年間で日米政府およびトヨタのような日本を代表する輸出産業との間で何らかの合意、握りが取り交わされたことを物語っている。その見返りが、今回のラ フード運輸長官のリップサービスに見られる、米国市場におけるトヨタの信用回復というわけだ。

一転、トヨタの信用回復に動いた米国の意図

そして、日米政府そして日本の輸出産業の間で取引された、その合意、握りとは何かといえば、日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加に 他ならない。以下に、2009年以降の動きを中心にトヨタリコール問題とTPPの動向を比較できる年表(クリックすると拡大します)を作成したが、これを あらためて眺めると、この2つのテーマが正に不即不離の形で進展してきたことが見えてくる。

Toyota_recall_tpp

そもそも米国のオバマ政権が、TPPへの参加を表明した背景には、リーマンショック以降の苦境が続く米国経済の立て直しを図るために打ち出した「輸 出倍増計画」にある。これは、米国からの輸出を倍増させて、貿易不均衡の解消と国内産業の活性化および雇用の確保を目標に、昨年1月のオバマ大統領の一般 教書演説で述べられたものだが、大方は、その実現性を危ぶんだ。景気低迷の中にあっても、米国が現在でも世界一の内需・消費大国であることに変わりはな い。その米国が一転して、モノを売る方に回るというわけだが、世界中で一体どこの国が米国製品の買い手となり得るのか。

急速な経済成長で確かに中国などアジア新興国の購買力は高まっているとはいえ、今の新興国市場が米国製品の輸出倍増の受け皿になるとはとても考えら れない。例えばアップル社の製品のほとんどが中国、台湾のEMSで製造されているように、そもそも米国製造業の製造拠点の海外移転が限界まで進んでおり、 今更、製品輸出に貢献する産業を国内に見つけようと思っても難しい状況だ。

また、中国に関しては、中国人民元の固定為替レートを保持している限りは、TPPのような包括的な枠組みに参加すること自体が不可能だ。となると、米国製品の受け入れ先として残る標的は日本だけである。

TPP加入は実質、関税自主権の放棄

京都大学の中野剛志准教授が指摘し ているように、TPPとは、米国が輸出倍増計画のもと日本を標的に打ち出した通商貿易戦略に他ならない。中野准教授も指摘しているように、TPPに加入を 表明している国のGDPシェアを比較してみれば、そのことは一目瞭然で、「米国が7割、日本が2割強、豪州が5%で残りの7カ国が5%。これは実質、日米 の自由貿易協定(FTA)」(中野剛志准教授)に他ならない。

ただし、FTA(自由貿易協定)であれば、2国間で関税品目等を協議して決められるが、TPPの場合は、2015年までに原則全ての関税をゼロにす ることを前提としているわけだから、これは実質的な関税自主権の放棄に等しい。逆にいえば米国側の関税も取り払われるわけだから、自動車のような日本の工 業製品を売り込み易くなるという見方もできる。しかし、米国も含め各国が通貨安競争に走る傾向が強い現在のような世界経済の下では、そうした希望的観測は 全て裏切られることになるだろう。トヨタ車の信用が地に墜ちて販売台数が激減するのを尻目に、米国市場で大幅にシェアを伸ばしたのは韓国ヒュンダイだが、 トヨタの信用失墜もさることながらウォン安の追い風を受けたことが大きく働いた。
要するに凋落したGMに代わって世界一の自動車メーカーになったトヨタを、米国は、円高と技術欠陥デマを流布することで完膚無きまでに恫喝し屈服させたのだ。

かくして、トヨタのようなグローバル輸出企業にとって残された選択は現地化である。米国市場ではトヨタに先行して現地化を進めているホンダの現地化 比率が実に70%に達している。米国が今回のトヨタのリコール問題への対応を通じて発しているのは、「トヨタも米国内で車を売りたいのなら、ホンダのよう にもっと現地化を推し進め、工場もヒトも米国内で調達しろ」というメッセージなのだ。

米国のターゲットは農産品、医薬・医療、金融

一方、TPPという万能鍵を得た米国は、虎視眈々と日本市場をこじ開ける機会を狙っている。そのターゲットは、農産品、医薬品・医療サービス、そし て金融である。中でも農産品はTPP加入の人身御供として差し出されるといっても過言ではなく、既に日本のメディアでは、国内産業の就業者比率で5%、 GDPに占める比率では1.5%に過ぎない農林水産業が抵抗勢力になって「第三の開国」を阻み、日本の輸出産業の足を引っ張るのかというナイーブな論調が 支配的になりつつある。

確かに、日本の農林水産業には抜本的な構造改革が必要だ。しかし、それは日本側の事情と戦略に基づいて進められるべきだ。

仮にTPPが導入され2015年までに農産品の関税障壁が取り払われたら、大規模化が進んでいるといわれる北海道等の農業生産者であっても全く太刀 打ちできず、壊滅的な打撃を受けるだろう。TPP議論に関しては、小泉政権時代の構造改革論者や経済学者までが勢いづいて、米国の外圧を利用して構造改革 や規制撤廃を進めるチャンスというようなことを言い出しているが、そんな与太話には間違っても乗ってはいけない。繰り返していうが、TPPとは米国製品を 日本に買わせるために仕組まれた米国の戦略であり、相手の戦略に乗っかって自国民を利することなどできるはずがないからだ。

現地化とTPP支持の見返りだったトヨタの信用回復?(カトラー Twitter: @katoler_genron )

現地化とTPP支持の見返りだったトヨタの信用回復?

もう一度、私が作った年表に戻ってほしい。
管首相がTPP加入検討を言い出したのが昨年の10月、そのわずか1ヶ月後に開催されたAPEC では、オバマ米大統領を議長とするTPPの枠組みが実質的に決められた。この時点で日本の輸出産業のTPP参加の支持とトヨタの米国市場での信用回復まで のシナリオがほぼ決定されたと見ていいだろう。

トヨタは米国における更なる現地化の推進、そして日本国内においてはTPP参加支持に回ることを前提に米国内での信用回復という企業として大きな見 返りを得た。一方、管直人率いる現政権は、国内輸出産業や経団連等の財界、経済団体からの支持を得られという見通しから、米国追従という、かつて辿った道 に再び舞い戻り「第三の開国」を言い出したのだ。
ちなみに「第三の開国」とは、私がこのブログで3年前に言い出した(関連記事参照)ことである。 管首相が私のブログを読んでそのキーワードをパクったのかどうかは知るよしもないが、言っていることの中味は全く異なる。私が主張した「第三の開国」と は、移民の受け入れも含めてアジアに向かって国を開くことを意味しており、管の言うように米国の前に三度ひれ伏すことではない。

管直人「第三の開国」の虚妄

先週まで出張で北海道の人々と仕事をしていたが、地元はTPP加入問題で相当ピリピリしていた。北海道の農林水産業の命運がこの問題には絡んでいるわけだから無理もないことだ。もし、TPPが発動されたら北海道は独立すべしと私は言っている。
リ ンゴ、さくらんぼ、牛肉とこれまでも農産物自由化の波はあったが日本の農産品は生き残ってきた、だから今回も何とかなるはずで、反対しているのは、農協だ けだというナイーブな議論を展開する経済学者もいるが、彼らは北海道の農業の現場の声を一度でも聞いたことがあるのか。
TPPで標的になるのは、米や大豆、とうもろこしといった主要農産物である。リンゴやさくらんぼといった高付加価値化が可能な嗜好作物ではない。
北 海道は、遺伝子組み換え作物の導入を拒否する決議を行っているが、TPP加入によって、先ず米国が標的にするのは、このあたりになるのではないか。関税障 壁を無くし防御手段を喪失させ、格安な米国の農産物が怒濤のように押し寄せてくることに恐怖を抱いた日本の農業生産者に対して、遺伝子組み換え作物の種苗 を採用するか、米国からの価格破壊の農作物輸出を受け入れるかの二者択一を迫るのだ。

当然、北海道の農民としては、米国農産物の価格破壊により壊滅させられるより、遺伝子組み換え作物の受け入れに踏み切るしかなくなるだろう。米国は 国策会社のモンサント社を通じて食料資源戦略を世界的に発動しており、その基本戦略が遺伝子組み換え作物の世界的な普及推進である。米国モンサント社は、 ベトナム戦争で悪名高い枯れ葉剤を製造していた化学会社で、その後は農薬を製造していたが、チマチマ農薬を造っているより、その農薬に耐性のある遺伝子組 み換えの種苗を生産する方が百倍儲かると現在のような企業に様変わりした。しかし、この会社は、私にいわせれば人類史に残る極悪な企業だ。

何が極悪かといえば、遺伝子組み換え種子の知財権を握り、世界中の農民を支配・搾取し、食料を米国の覇権構築の手段にすることを明確に意図している からだ。しかも、その意図を実現するために、自社の種苗の安全性は確認されているとし、自然界の作物が持っている遺伝子を汚染することを厭わない。ブラジ ルのように遺伝子組み換え作物を拒否していた国に対しては秘密裏に遺伝子組み換えトウモロコシを密輸してばらまき、在来種の遺伝子を汚染させ遺伝子組み換 え作物を既成事実化させるというようなあくどい所業を行っている。

TPPが発動されれば、北海道の大地は、こうしたモンサントのような企業に蹂躙されてしまうだろう。管直人は、日本の土と作物を汚染させた文字通り「売国奴」として末代まで糾弾されることになる。